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2026.07.13

池袋で奥歯のクラック(ひび)を保存|開咬によるエンド・ペリオ病変に対する精密根管治療と歯周組織再生療法

再生療法時に見られたクラック
術前の根尖病変
術後の治癒所見
術前のクラックに伴う付着の喪失
クラックリペア後の治癒所見

開咬によって奥歯にクラックが生じた歯を残すために行った精密根管治療・クラックリペア・歯周組織再生療法

はじめに

「奥歯に亀裂が入っているため、抜歯が必要と言われた」
「根の先まで感染が広がっているが、できる限り自分の歯を残したい」
「歯周病と根管治療の両方が必要と言われ、どのような治療になるのか分からない」

歯のクラック、いわゆる亀裂は、虫歯とは異なり、歯の内部へ細菌が侵入する経路そのものが形成されている状態です。

クラックが浅い段階であれば、亀裂の進行を抑えながら修復できる可能性があります。しかし、亀裂が歯根方向へ進行し、根管内や歯周組織まで感染が及んでいる場合には、治療の難易度が大きく上がります。

今回ご紹介するのは、開咬によって奥歯に負担が集中し、左右の奥歯にクラックを認めた患者さんです。

特に左上の奥歯ではクラックが深く進行し、歯周組織から根尖部まで感染が波及していました。根管由来の病変と歯周組織由来の病変が連続した、いわゆるエンド・ペリオ病変の状態です。

一般的には保存が難しく、治療を行っても再感染や歯根破折によって抜歯に至る可能性が高いことを、患者さんへ事前に説明しました。

そのうえで患者さんから、

予知性が高くないことは理解しています。それでも、可能性があるのであれば、少しでも長く自分の歯で生活したいです。

という希望がありました。

そこで今回は、抜歯を前提とするのではなく、

  • マイクロスコープを使用した精密根管治療
  • クラック部分の感染歯質除去
  • MTAによるクラックリペア
  • 短繊維強化型コンポジットレジンによる接着築造
  • エムドゲインと自家骨を用いた歯周組織再生療法

を組み合わせ、歯の保存を試みました。

治療から6か月後には、臨床症状および画像上で治癒傾向を確認しています。今後は、クラックの原因の一つと考えられる開咬を改善するため、矯正治療を進める予定です。

なお、今回の結果はすべてのクラック歯に当てはまるものではありません。クラックの位置、深さ、歯根周囲の骨の状態、動揺度、残存歯質量、感染範囲、咬合状態によっては、抜歯が適切となる場合もあります。


症例概要

主訴

奥歯の違和感と腫れがあり、できる限り歯を抜かずに残したい。

診断

  • 開咬
  • 両側臼歯部のクラック
  • 左上臼歯の歯冠・歯根部クラック
  • 根管内感染
  • 根尖性歯周炎
  • 歯周組織と根尖病変が連続したエンド・ペリオ病変
  • クラックに伴う限局性の深い歯周ポケットおよび骨吸収

治療内容

  • ラバーダム防湿
  • マイクロスコープ下での精密根管治療
  • 骨縁上までの感染歯質およびクラック周囲の汚染除去
  • 次亜塩素酸ナトリウムによる根管洗浄
  • MTAを使用した根管充填およびクラックリペア
  • 接着前の再清掃・ディコンタミネーション
  • マイルドエッチング
  • 象牙質接着処理
  • 短繊維強化型コンポジットレジン「everX Posterior」による築造
  • エムドゲイン、自家骨、MTAを使用した歯周組織再生療法

経過

治療後6か月で、症状の消失と歯周組織・根尖部の治癒傾向を確認しました。

今後の治療

開咬による臼歯部への負担を改善し、クラックの再発や進行リスクを抑えるため、矯正治療を予定しています。


開咬があると、なぜ奥歯にクラックが起こりやすいのか

開咬とは、奥歯で噛んだ際に上下の前歯が接触せず、前歯部分に隙間が残る噛み合わせです。

本来、食事や食いしばりの際に発生する力は、複数の歯によって分散されます。しかし、開咬では前歯が咬合に参加しにくいため、噛む力が奥歯へ偏りやすくなります。

その結果、臼歯部に繰り返し大きな負担が加わり、

  • 歯の咬頭に亀裂が入る
  • 詰め物や被せ物の周囲からクラックが進行する
  • 歯髄炎を起こす
  • 歯の神経が壊死する
  • 歯根方向へクラックが延びる
  • 歯周組織から細菌が侵入する
  • 歯根破折に至る

といった問題が生じることがあります。

今回の患者さんも、左右両側の奥歯にクラックを認めていました。

つまり、左上の1本だけに偶発的な亀裂が生じたのではなく、開咬によって奥歯へ負担が集中する口腔内環境そのものが、クラックの発生に関係している可能性が高い状態でした。

感染した1本だけを治療しても、噛み合わせを改善しなければ、ほかの奥歯にも同じ問題が起こる可能性があります。

そのため今回の治療では、まず感染が進行した歯の保存治療を行い、治癒を確認した後に矯正治療によって開咬を改善する、という段階的な計画を立てました。


歯のクラックは虫歯とは異なる難しさがあります

虫歯であれば、感染した歯質を除去し、健全な歯質に対して接着修復を行うことが基本です。

一方、クラックでは、非常に細い亀裂が歯の内部へ延びています。

亀裂の内部には細菌や有機質が入り込んでいる可能性がありますが、クラックは肉眼で確認できないほど細いこともあります。また、すべての亀裂を削って除去しようとすると、歯そのものが大きく失われてしまいます。

クラック歯の治療では、

  1. 感染した部分を可能な限り除去する
  2. 残せる歯質を過剰に削らない
  3. 根管内の細菌量を減らす
  4. クラックを介した再感染経路を封鎖する
  5. 残った歯質を接着によって一体化する
  6. 歯周側からの感染経路も処置する
  7. 治療後に過度な咬合力が集中しないようにする

という複数の条件を同時に満たす必要があります。

特に今回のように、クラックから歯周組織と根管内の両方へ感染が進行しているケースでは、根管治療だけ、あるいは歯周外科だけでは十分な治癒が得られない可能性があります。


エンド・ペリオ病変とは

「エンド」は歯内療法、つまり歯の神経や根管内の治療を意味します。

「ペリオ」は歯周治療、つまり歯ぐきや歯槽骨など、歯を支える組織の治療を意味します。

エンド・ペリオ病変とは、根管内の感染と歯周組織の感染が関連し、病変が連続している状態です。

歯髄と歯周組織は、

  • 根尖孔
  • 側枝
  • 副根管
  • 象牙細管
  • 歯根表面の欠損
  • クラックや歯根破折

などを介して交通する可能性があります。

今回の症例では、クラックが細菌の侵入経路となり、歯周側から根尖方向へ感染が進行していました。

このような状態では、レントゲンやCTで大きな骨吸収が認められることがあります。また、限局した非常に深い歯周ポケットが存在する場合には、クラックや歯根破折を疑う重要な所見になります。

ただし、画像検査だけでクラックの深さや広がりを完全に判断することはできません。

最終的には、

  • 歯周ポケットの形態
  • 排膿の有無
  • 歯の動揺
  • 打診痛
  • 咬合痛
  • 歯髄診断
  • CT所見
  • マイクロスコープでの観察
  • 外科処置時の歯根表面の確認

などを総合して診断します。


保存が困難な歯を治療する前にお伝えしたこと

クラックが歯根深部まで進行している歯、特に歯周組織から根尖部まで感染が連続している歯は、一般的に予知性が高いとはいえません。

治療直後に症状が改善しても、時間の経過とともにクラックが再び開いたり、亀裂がさらに深く進行したりする可能性があります。

また、クラック内部の感染を完全に確認・除去することは困難です。

そのため患者さんには、次の点を説明しました。

  • 治療をしても歯を保存できない可能性がある
  • 治癒後もクラックが進行する可能性がある
  • 再感染によって腫れや痛みが再発する可能性がある
  • 将来的に抜歯が必要になる可能性がある
  • 外科処置後に歯肉退縮が起こる可能性がある
  • 歯周組織が完全に元の状態へ戻るとは限らない
  • 保存治療には複数回の処置と経過観察が必要になる
  • 開咬を改善しなければ、再び奥歯へ過度な力がかかる可能性がある

そのうえで、患者さんが歯の保存治療を希望されたため、できる限り感染源を減らし、侵入経路を封鎖する方針としました。


精密根管治療で特に重視した「感染除去」と「接着」

今回の根管治療で特に重視したのは、次の2点です。

1.根管内壁とクラック周囲の徹底した感染除去

2.根管治療後の精密な接着と封鎖

根管治療は、単に歯の神経を取り、根管の中へ材料を詰めれば終了という治療ではありません。

治療の目的は、根管内の感染源を可能な限り減らし、再び細菌が侵入・増殖しにくい環境を作ることです。

特にクラック歯では、根管内部だけでなく、亀裂に沿って感染が広がっている可能性があります。

そのため、機械的な根管形成だけではなく、

  • マイクロスコープによる拡大観察
  • 感染歯質の選択的除去
  • 薬液による化学的洗浄
  • クラック部分の封鎖
  • 根管充填後の確実な接着修復

までを一連の治療として行う必要があります。

当院の精密根管治療について詳しくは、池袋で行う精密根管治療をご覧ください。


ラバーダム防湿を行う理由

根管治療では、ラバーダムと呼ばれるゴム製のシートを使用して治療する歯を口腔内から隔離しました。

口腔内の唾液には多数の細菌が存在します。

根管内を清掃している途中に唾液が侵入すると、新たな細菌を根管内へ入れてしまう可能性があります。また、根管洗浄に使用する薬液が口腔内へ漏れることを防ぐためにも、ラバーダム防湿は重要です。

さらに、接着操作では唾液や血液、水分による汚染が接着強度に影響する可能性があります。

今回のようにクラックを封鎖し、残った歯質を接着によって一体化させる治療では、乾燥させすぎず、同時に唾液や血液を混入させない、精密な水分管理が必要です。

ラバーダムは、根管内への再汚染を抑えるだけでなく、その後の接着操作を安定させるためにも欠かせない処置です。


マイクロスコープで骨縁付近までクラックを確認

クラックは、通常の視野では確認が難しいことがあります。

そこでマイクロスコープを使用し、歯質を拡大しながら感染範囲を確認しました。

今回の症例では、特に骨縁付近までの歯質とクラック周囲を慎重に観察し、汚染された部分を除去しました。

ただし、クラックに沿って無制限に歯質を削ればよいわけではありません。

感染を取り残せば再発の原因になりますが、削りすぎると残存歯質が減少し、歯の強度がさらに低下します。

そのため、

  • 変色した歯質
  • 軟化した歯質
  • 接着を妨げる汚染層
  • 明らかに感染しているクラック周囲

を見極めながら、保存可能な歯質をできる限り残しました。


根管洗浄では「薬液の濃度」だけでなく「接触時間」も重要です

根管の内部は複雑な形態をしています。

根管治療用の器具が直接触れられるのは、根管壁の一部分に限られます。根管には枝分かれや凹凸、フィン状構造、側枝などがあり、機械的な切削だけですべての感染物質を除去することはできません。

そこで、次亜塩素酸ナトリウムを使用した化学的洗浄を行います。

次亜塩素酸ナトリウムには、細菌に対する作用だけでなく、有機質を溶解する作用があります。ただし、その効果は濃度だけで決まるものではなく、薬液の量、交換頻度、温度、活性化方法、根管形態、バイオフィルムの成熟度、そして接触時間などに左右されます。

根管内細菌に対する次亜塩素酸ナトリウムの効果を検討した基礎研究でも、濃度と接触時間の両方が殺菌効果へ影響することが報告されています。ある実験では、成熟したバイオフィルムに対して高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを長時間作用させた条件が、より高い効果を示しました。ただし、これは抜去歯を用いた実験結果であり、「すべての症例で30分作用させれば完全に殺菌できる」という意味ではありません。 

日常生活でも、衣類の染み抜きや浴室の洗浄では、薬剤を塗布してすぐ流すのではなく、一定時間作用させることがあります。

根管洗浄も考え方は似ています。

器具で物理的に取り除けない有機質や細菌性バイオフィルムに対しては、薬液を適切に到達させ、必要な時間作用させることが重要です。

今回の症例でも、根管形成後に洗浄液を根管内へ一定時間作用させ、途中で薬液を交換しながら化学的清掃を行いました。

ただし、次亜塩素酸ナトリウムは根尖外へ逸出すると組織障害を起こす可能性があります。そのため、濃度や量だけでなく、洗浄針の位置、注入圧、根尖部の形態を考慮し、安全性に配慮して使用する必要があります。


MTAによる根管充填とクラックリペア

感染除去と根管洗浄後には、MTA系材料を使用して根管の封鎖とクラック部分のリペアを行いました。

MTAは、水分の存在下で硬化するカルシウムシリケート系材料です。

根管治療では、

  • 穿孔部の封鎖
  • 根尖部の封鎖
  • 逆根管充填
  • 歯髄保存療法
  • 吸収部位の封鎖
  • 一部のクラックや欠損部のリペア

などに使用されます。

MTAを使用する目的は、材料がクラックを治癒させたり、割れた歯を元どおりに接合したりすることではありません。

今回の目的は、感染除去後に残った微細な間隙や不整形な部分へ材料を適合させ、細菌や組織液の移動経路をできる限り封鎖することです。

なお、「MTAの分子量が歯質より小さいため、必ずクラックの奥まで入る」という説明は正確ではありません。

MTAは粒子を含むセメント材料であり、微細部分への進入や適合性は、粒子径、材料の練和状態、クラックの幅、内部の水分、汚染状態、填入圧、術者の操作などに左右されます。

そのため、MTAを使用すればクラックを完全に封鎖できるとは限りません。

本症例では、マイクロスコープで確認しながら、感染除去後の根管およびクラック周囲へ可能な限り緊密に材料を充填しました。


根管治療後の歯は「何を詰めるか」だけでなく「どう接着するか」が重要です

根管内の処置が終わっても、歯冠側から細菌が再侵入すれば、根管治療の結果が損なわれる可能性があります。

特にクラック歯では、歯質が分断される方向へ力が加わるため、単に穴を材料で埋めるだけでは不十分です。

残った歯質をできる限り温存し、接着修復によって歯全体を一体化させる必要があります。

今回の症例では、根管充填後にすぐ築造を行うのではなく、接着面を再度清掃しました。

根管洗浄剤、仮封材、MTA、血液、唾液、切削片などが象牙質表面に残っていると、接着を妨げる可能性があります。

そのため、接着前にディコンタミネーションを行い、接着面の汚染除去を行いました。

その後、

  1. 接着面の再清掃
  2. マイルドエッチング
  3. 象牙質表面の調整
  4. コラーゲン分解に関与する酵素への配慮
  5. 象牙質の硬質化を意識した前処理
  6. ボンディング材の塗布
  7. 光照射
  8. 短繊維強化型コンポジットレジンによる築造

という手順で処置しました。

接着処理は、薬剤を順番に塗布するだけの作業ではありません。

歯質の状態、象牙質の水分量、汚染の有無、材料の塗布量、摩擦塗布、エアブロー、光照射器の出力や照射方向など、複数の要素が結果に影響します。


everX Posteriorを人工象牙質として使用

築造には、短繊維強化型コンポジットレジンであるeverX Posteriorを使用しました。

everX Posteriorは、短いガラス繊維を含むコンポジットレジンで、主に大きく失われた象牙質部分を補う材料として使用されます。

一般的なコンポジットレジンだけで大きな欠損を修復すると、重合収縮や咬合力によって修復物内部へ応力が集中する可能性があります。

短繊維強化型コンポジットレジンは、材料内部の繊維によってクラックの進展を抑え、応力を分散させることを目的としています。

根管治療を受けた歯に対する基礎研究やレビューでは、短繊維強化型コンポジットレジンを使用した修復が、一定の条件下で破折抵抗性や破折様式を改善する可能性が示されています。もっとも、研究の多くは抜去歯を使った実験であり、すべての臨床症例で長期予後が向上することを保証するものではありません。 

また、臨床研究では通常のコンポジットレジン修復と比較して明確な優位性が示されなかった報告もあります。材料を使うだけで成功するのではなく、残存歯質量、接着操作、咬合、修復設計、術後管理を含めて判断する必要があります。 

当院では、everX Posteriorを最終的なエナメル質の代わりとしてではなく、失われた象牙質を補う「人工象牙質」として使用します。

その上層には症例に応じた修復材料を用い、適切な形態と咬合を付与します。


歯周組織からの感染経路に対する歯周組織再生療法

根管内の感染を処置しても、クラックを介して歯周側に深い骨欠損が残っている場合、根管治療だけでは十分な治癒が得られないことがあります。

今回の症例では、歯周組織から根尖部へつながる感染経路が認められました。

そこで、精密根管治療と接着築造を行った後、歯周組織再生療法を実施しました。

外科処置では、歯根表面と骨欠損部を確認し、

  • 炎症性組織の除去
  • 歯根面の清掃
  • クラック部の確認
  • MTAによるクラックリペア
  • 自家骨の填入
  • エムドゲインの使用
  • 創部の安定化

を行いました。

歯周組織再生療法の目的は、単に骨補填材を入れて画像上の白い部分を増やすことではありません。

歯根膜、セメント質、歯槽骨を含む歯周組織が治癒しやすい環境を整え、歯を支える組織の再構築を目指します。

エムドゲインを使用した歯周組織再生療法については、骨内欠損に対するアタッチメントゲインや歯周ポケットの改善が報告されています。一方で、欠損形態や術式による差が大きく、すべての症例で同じ結果が得られるわけではありません。 

エムドゲインと骨移植材を組み合わせる方法についても、深い骨内欠損で軟組織所見の改善が報告されていますが、材料の選択だけでなく、感染源の除去、欠損形態、血餅の安定、創部の閉鎖、術後のプラークコントロールが重要です。 

今回、自家骨を選択したのは、患者さん自身の骨を利用して欠損部の足場を作り、エムドゲインと組み合わせて治癒環境を整えるためです。

歯周組織再生療法を含む当院の歯周病治療については、「池袋の歯周病治療」で詳しくご紹介しています。


6か月後に治癒傾向を確認

治療から6か月後、臨床症状は改善し、画像上でも根尖部および歯周組織の治癒傾向を認めました。

今回のように、歯周組織から根尖部まで感染が進行していた歯で治癒傾向が得られたことは、歯を保存するうえで良好な経過と考えられます。

ただし、6か月時点で症状がなく、画像上の改善が認められたからといって、長期的な保存が保証されたわけではありません。

クラックそのものが消失したわけではなく、今後も咬合力によって進展する可能性があります。

そのため、

  • 定期的な歯周ポケット検査
  • 動揺度の確認
  • 咬合状態の確認
  • レントゲンまたはCTによる経過観察
  • 痛み、腫れ、違和感の確認
  • 修復物の接着状態の確認
  • ナイトガードの検討
  • 開咬に対する矯正治療

が必要です。


根管治療だけで終わらず、開咬を治す必要があります

今回の歯を保存できたとしても、開咬によって奥歯へ負担が集中した状態を放置すれば、同じ歯のクラックが進行したり、反対側の奥歯に新たな破折が起こったりする可能性があります。

実際にこの患者さんでは、左右両側の奥歯にクラックが認められました。

これは、1本の歯だけを治療すれば問題が解決する状態ではないことを示しています。

根管治療と歯周組織再生療法は、感染した歯を保存するための治療です。

一方、矯正治療は、感染やクラックが発生した背景にある噛み合わせを改善し、治療した歯を長く維持するための治療です。

今後は矯正治療によって、

  • 前歯を咬合へ参加させる
  • 奥歯だけに集中している負担を分散する
  • 臼歯部の咬合関係を整える
  • 側方運動時の干渉を調整する
  • 修復した歯に過度な力がかかりにくい環境を作る

ことを目指します。

歯を残す治療では、「感染を取ること」と「壊れた部分を修復すること」だけでなく、なぜその歯が壊れたのかを考え、原因へ介入することが重要です。

開咬など噛み合わせを改善する矯正治療については、「池袋の矯正歯科」をご覧ください。


クラック歯は必ず保存できるわけではありません

当院では、可能な限り歯を保存する治療を検討します。

しかし、保存治療を行うことが常に患者さんの利益になるとは限りません。

次のような場合には、保存治療の予知性が特に低くなる可能性があります。

  • クラックが歯根を完全に分断している
  • 歯根破折によって歯が分離している
  • 複数の歯根へ破折が広がっている
  • 全周的に大きな骨吸収がある
  • 歯の動揺が著しい
  • 健全な歯質がほとんど残っていない
  • 防湿や接着ができないほど深部まで欠損している
  • 感染除去後に修復可能な歯質が残らない
  • 咬合力を適切にコントロールできない
  • 清掃性を確保できない
  • 再発を繰り返している

無理に歯を残すことで感染が長期間続き、周囲の骨をさらに失うと、その後のインプラントやブリッジなどの治療が難しくなる場合もあります。

そのため、歯を残せるかどうかだけではなく、

  • どの程度の期間保存できる可能性があるか
  • 保存のために必要な治療回数と費用
  • 再発時の対応
  • 抜歯した場合の選択肢
  • 周囲の骨や隣在歯への影響
  • 患者さんが何を最も重視するか

を総合的に検討する必要があります。


抜歯と言われた歯でも、保存できる可能性が残っていることがあります

深いクラックやエンド・ペリオ病変を伴う歯は、保存が難しいことに変わりはありません。

しかし、

  • クラックの位置を確認できる
  • 感染源へ到達できる
  • 汚染歯質を除去できる
  • 根管内を十分に洗浄できる
  • クラック周囲を封鎖できる
  • 接着に必要な歯質が残っている
  • 歯周組織再生療法を適用できる欠損形態である
  • 術後の咬合を管理できる

といった条件がそろえば、保存治療を検討できる場合があります。

今回の症例では、

精密根管治療による根管内感染への対応、MTAによるクラックリペア、接着築造による歯冠側からの封鎖、歯周組織再生療法による歯周側からの感染経路への対応

を組み合わせました。

根管治療、接着修復、歯周外科のいずれか一つだけではなく、それぞれの治療を連携させたことが重要なポイントです。

当院が大切にしている天然歯をできるだけ長く残す治療の考え方については、「治療した歯を永く健康に保つために」もご覧ください。


まとめ

今回ご紹介したのは、開咬によって左右の奥歯にクラックが生じ、左上臼歯では歯周組織から根尖部まで感染が進行したエンド・ペリオ病変の症例です。

一般的には保存が困難であり、治療後も抜歯になる可能性があることを患者さんへ説明しました。

そのうえで、少しでも長く自分の歯で生活したいという希望を受け、

  • ラバーダムを使用した精密根管治療
  • マイクロスコープ下での感染歯質除去
  • 次亜塩素酸ナトリウムによる化学的洗浄
  • MTAによる根管充填とクラックリペア
  • 接着前のディコンタミネーション
  • everX Posteriorによる接着築造
  • エムドゲインと自家骨を使用した歯周組織再生療法

を行いました。

6か月後には症状の改善と画像上の治癒傾向を確認しています。

ただし、現在の治癒は治療のゴールではありません。

今後は矯正治療によって開咬を改善し、奥歯に集中している負担を分散する必要があります。また、長期的な経過観察を行い、クラックの進行や感染の再発がないかを確認していきます。

抜歯と診断された歯であっても、状態によっては精密根管治療や歯周組織再生療法によって保存を試みられる場合があります。

一方で、すべての歯を保存できるわけではありません。

CT、マイクロスコープ、歯周組織検査、咬合診査などを行い、保存した場合と抜歯した場合の利点・欠点を比較したうえで治療方針を決めることが重要です。

精密根管治療や歯周組織再生療法など、当院で行ったその他の治療症例は「症例紹介」からご覧いただけます。


治療に伴う主なリスク・副作用

  • 治療後に痛み、腫れ、出血が生じることがあります。
  • 根管内およびクラック内部の細菌を完全に除去できない場合があります。
  • 治療後に感染が再発する可能性があります。
  • クラックが進行し、歯根破折に至る可能性があります。
  • 治療途中または経過観察中に抜歯が必要になる場合があります。
  • 歯周外科後に歯肉退縮や知覚過敏が生じることがあります。
  • 歯と歯の間に隙間が生じたり、歯が長く見えたりする場合があります。
  • 歯周組織再生療法を行っても、失われた組織が完全に再生するとは限りません。
  • MTAや骨移植材、エムドゲインを使用しても、治癒を保証するものではありません。
  • 接着修復物が欠けたり、脱離したりする可能性があります。
  • 咬合力や歯ぎしり、食いしばりによって再び破折する可能性があります。
  • 経過によっては追加の根管治療、外科処置、補綴治療が必要になります。
  • 矯正治療には歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、歯周病、後戻りなどのリスクがあります。

監修者

生野 誠(せいの まこと)
歯科医師/日本口腔外科学会認定医
医療法人社団 結 理事長
グランドメゾンデンタルクリニック池袋・恵比寿 統括院長
経歴
九州歯科大学 卒業
慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室 臨床助教 
日本口腔外科学会 認定医

専門分野
精密根管治療
歯周組織再生療法
歯の破折(クラックトゥース)の保存治療
包括的歯科治療(フルマウスリハビリテーション)
インプラント治療
咬み合わせ治療
審美歯科


参考文献
Kim SG, Kratchman SI. Modern Endodontic Surgery Concepts and Practice: A Review. Journal of Endodontics.
Tsesis I, Rosen E, Tamse A, Taschieri S. Outcomes of Surgical Endodontic Treatment Performed by a Modern Technique: A Meta-analysis. Journal of Endodontics.
Kim S, Kratchman SI. Microsurgery in Endodontics. Dental Clinics of North America.
Cortellini P, Tonetti MS. Clinical concepts for regenerative periodontal therapy. Periodontology 2000.
Cortellini P, Tonetti MS. Periodontal regeneration of intrabony defects: Evidence and clinical recommendations. Journal of Clinical Periodontology.
American Association of Endodontists. The Cracked Tooth: Diagnosis and Treatment Guidelines.
日本歯内療法学会. 歯内療法ガイドライン
日本歯周病学会. 歯周病診療ガイドライン2022
日本顕微鏡歯科学会. マイクロスコープを用いた歯科治療指針